メンタルリープ(赤ちゃんの退行期)の存在を裏付ける科学的根拠1

すべてはチンパンジーの退行期の発見から

全てはF. プローイュ博士とH. ヴァン・デ・リート博士が1971年にアフリカはタンザニアのゴンべ国立公園に降り立ったときに始まりました。

その頃の二人は博士課程の学生で、H.ヴァン・デ・リート博士は教育心理学と自然人類学を、F. プローイュ博士は行動生物学を学んでいました。二人はそこでチンパンジーの母親と乳幼児の研究を行い次のことがわかりました。

図1:チンパンジーの自立性の発達過程

この図を見るとチンパンジーの乳幼児の自立性の発達は徐々にではなく、バウンドして跳ね上がるように起こることがわかります。

1番左側の列には月齢が示してあります。また2列目以降は左から「お腹に張り付いている状態」「お腹以外に張り付いている状態」「母親に触れてはいるが体を支えられてはいない状態」「母親と体が離れているが手の届く範囲」「手の届く範囲の外だが5メートル以内」「5メートル以上15メートル以内」という6つの区分に別れています。

2列目以降の1から6までの数字は、観察中にその距離区分で費やされた時間をランキングにしたものです。またランキングトップを意味する数字の1を線で結んであります。この線は、チンパンジーの乳幼児が最も多くの時間を費やした距離区分の月ごとの推移を示しています。

最初の自立性の飛躍的発達を示す横線Aでは、基本的に母親とお腹同士がくっついている状態から、基本的に母親の体から離れてはいるが依然として接触している部位がある状態に移行しています。

次の横線1では、基本的に体のどこかしらかがくっついている状態から、体は離れているが手の届く範囲に移行しています。

最後の横線2は、基本的に手の届く範囲にいる状態から、基本的に手の届く範囲の外にいるが5メートル以内にはいる状態への移行です。 

また上記の飛躍的進歩が起こる前に、退行現象が観察されました。この退行現象の特徴は「1、母親の近くにだんだんと戻ってくる」「2、お腹同士がくっついている時間が一時的に増える」でした。この退行期に伴って、体の接触に関して母と子の衝突が起こる期間がありました。

その例として、上の写真には母親が子供を乳首やお腹から離そようとしている姿が映っています。母親が引っ張ったり、押しのけたり、噛んだり、自分の毛や乳首をぎゅっとつかんで子供の手、足、口を振りほどこうとしています。このときは母親の方が諦めて、子供を抱えて乳を吸わせたまま移動を続けていました。

そして、このような母と子の衝突が起こった後に自立性の飛躍的成長が観察されたのです。

進化論の話で言えば、乳幼児発達における退行期現象はとても古くから知られていて、霊長類でも非霊長類の哺乳類でも確認されています。

たとえば1974年にホーウィッチ氏が、12種の霊長類と2種の非霊長類の哺乳類において、乳首を触れている時期にピークがあることを発表しています。彼はそれに加えて、これらのピークが類似する発達段階で起こることを示しています。このことからも種の発達が反発的に進むことがわかります。また乳首への接触がピークに達するのは、おそらく精神が不安定になることに起因しているのでしょう。

二人がゴンべ国立公園で我々が行った野生のチンパンジーの乳幼児の行動発達と自立性の発達に関する観察研究は、基本的にこのホーウィッチ氏の発見を拡張させたものです。 

人にも退行期はあるのか?

次の疑問はこの退行期が私たち人類にも失われず残っているかどうかでした。進化のセオリーで言うと、非霊長類、猿、類人猿に存在するということは、それらと非常に近い種である我々人類にも退行期が存在する確立が高いはずです。

二人は母国のオランダで「現代の人間の赤ちゃんにも退行期があるという証拠を見つけられるか?」の調査を始め、次のことが明らかになりました。

図2:人間の赤ちゃんの退行期が報告された週齢

この図は二人が1992年に発表した独自の研究データから引用した図です。母親から赤ちゃんに退行現象が起こったと報告を受けた修正週齢ごとの割合を示しています。

このデータによって、生後20ヶ月間に10回の齢と結びついた退行期があることがわかりました。この図の上半分のアルファベットが振られた各行は1人1人の乳幼児を、黒い横線はぐずり期を表しています。

ここでいうぐずり期とは乳幼児が普段よりぐずりやすくったと「母親が感じた時期」です。この時期の赤ちゃんは普段よりエンエン泣きやすくなったり、母親にベッタリになったり、イライラと不機嫌にしていることが多くなっていました。つまり3つのオノマトペ「エンエン、ベッタリ、イライラ」がぐずり期の特徴というわけです。

図の下半分には、上半分のデータを基に、母親たちから赤ちゃんが普段よりぐずりやすくなったと報告を受けた週齢ごとの割合がまとめてあります。

図3:母親との接触を直接観測したデータ

母親たちの報告の実態を確認するために、上記のインタビューとは別に、自宅での母親と乳幼児のやり取りの様子を直接観察しました。

このグラフは出産予定日から数えた修正週齢ごとに、母親と体が接触しているのを直接観察した時間を示しています。これを見ると齢が増すに連れて母親と体が接触している時間が短くなっています。ただし全体的な減少傾向の中で、一時的に体の接触時間が長くなるピークがあるのがわかります。これらの一時的なピークが、赤ちゃんが普段より母親にベッタリになる退行期を表しています。 

ちなみに上記の齢とひもづいた退行期は、その後スペイン、イギリス、スウェーデンの3つの独立した研究グループによって再現されました。これらの再現研究も、2003年に「Regression periods in human infancy」という本で発表されています。

人間の赤ちゃんの退行期と母親との衝突

図4:苛立ち、知育、衝突の分布

この図からわかるように、チンパンジーのときと同様の母親と乳幼児の衝突が人間にも見られたのです。上の図は毎週のアンケートと詳細なインタビューを組み合わせて取ったデータで、母親と乳幼児の衝突の過程が3つのカテゴリーに分けられています。

最初のカテゴリーは苛立ちです。これは特に赤ちゃんが小さいときによく見られます。退行期に入ると初めのうち母親は心配しますが、だんだんとそれが苛立ちへと変わります。ただし生後数カ月間は、母親たちがその苛立ちを態度に出しません。

しかし大きくなるに連れて(とりわけ生後1年の後半になると)その苛立ちが母親たちの態度に表れるようになります。我々はこれを「知育期」と呼んでいます。その理由は、この時期に赤ちゃんにできることが増えたのを母親たちが感じて、高い要求をするようになるからです。この頃の母親は波風を立てない方法で赤ちゃんをあやそうとします。また赤ちゃん自身も母親に従順です。 

それがもっと大きくなると(とりわけ2歳頃になると)、赤ちゃんはもう母親に従順ではなくなって「親子ゲンカ」が起こります。ちなみに生後18ヶ月頃には、すべての母親から親子ゲンカがあったことが報告されました。

図5:赤ちゃんの退行期と母親との親子ゲンカの関係

この図の上部には退行期が逆さまに示されており、一番下が退行期のピークを表しています。この図から退行期が起こって間もなく衝突期が起こるのが見て取れます。つまりチンパンジーのときと同様、人間の赤ちゃんの場合も退行期には衝突期が伴っていたのです。

リーパパ

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